タンノイのスピーカーユニットは箱を選びます。最近のユニットはわかりませんが、ビンテージタンノイ(ゴールド以前、100歩ゆずって、HPD以前を指す)では、間違いありません。五味康祐氏が、英国からオートグラフ箱を取り寄せて、初めて幸せになれたように、音作りのノウハウの込められた箱とセットで、本来の能力を発揮します。タンノイ箱に限りませんが、良い時代の英国製のスピーカーキャビネットをみると、複合素材の使い分けや、英国流の吸音材にノウハウを感じます。
そういった事情で、私はタンノイ箱については、国産箱を一切信用していません。 音響的に優れたキャビネットを作るのは、単なる木工屋には無理だからです。実際、国産箱は複合素材の使い分けも、英国流の吸音材も使えていません。英国は、意外と南洋材のラワンも使ってるのですよ。他の素材との組みあわせですが。
かといって、タンノイのスピーカーユニットを活かす箱はタンノイだけとは限りません。
英国のLOCKWOOD社は、現在はタンノイ製品のメンテナンス関連の業務を担当している会社ですが、かつては、TANNOYなどのスピーカーユニットを使用して、業務用のスタジオモニターを作っているスタジオモニターメーカーでした。→ 2024年くらいからスタジオモニタースピーカーの製造を再開しています。
タンノイの12/15インチを密閉箱に入れたAcademyや15インチを変形ダブルバスレフ箱にいれたMajorが有名です。私はBTHの18インチ同軸を使用した巨大版のMajorを見たこともあります。おそらく、特注品なのでしょう。また、10インチの3LZやHPD295を入れたタイプもあったようです。
これらのLOCKWOOD社製のモニタースピーカーはBBCやDECCAでスタジオモニターとして使用実績をもっています。録音機材に強いこだわりを持っていたピンク・フロイドも採用していたそうです。また、英国だけでなく、フランスでも実績があったとか。
LOCKWOODのキャビネットは、モニタースピーカーとして、正確な音を出すための色々な工夫がされていて、楽器的響きを重視するタンノイオリジナルとは、異なった魅力があります。Academyはスピーカーユニットのサイズの割に小型の密閉箱ですが、フロントとリアバッフルを4本の太い長ネジで圧着することにより、箱の強度をアップしています。主力製品であるMajorは、BBC研究所の特許構造を採用しています。これは初代BBCモニターLSU/10(PARMEKOの同軸+LORENZ LPH65の3WAY)に採用されていた構造で、キャビネットの下半分がレゾナンスコントロール用の吸音構造の部屋のようになっている、特殊ダブルバスレフです。同じユニットを使ったタンノイ箱よりストレートな音質で、Majorはキャビネットの効果か、非常に分厚い中低音を楽しむ事ができ、タンノイのスピーカーユニットの異なる魅力を知る事ができます。
同じHPD395Aを使った、TANNOY ARDENが1977年に239000円/本だったのに対し、LOCKWOOD MAJORは1978年に498000円しています。代理店はTANNOYがTEAC,LOCKWOODがシュリロ貿易と異なり、単純に日本での売価を比較することはできませんが、一般的な家庭用システムとくらべて圧倒的に高価なシステムだった事が判ります。
上記の図はBBCのパテントより抽出したものです。LSU/10やMAJORは、ダクトが下向きになっています。24はアンプ設置のためのスペースの案として図示されていますが、私のMAJORにはこういったスペースはありません。裏板にQUAD 50Eを搭載するためのスペースが確保されたモデルもあったようです。実物と見比べると、吸音材の設置方法など、特許には記載されない、ノウハウがある事もわかります。
私はLOCKWOOD MAJORを主にEAR861という真空管アンプで駆動しています。EARは現代的な、反応の良い音の真空管アンプの為、MAJORの美点を良く発揮し、全帯域で反応の良いクリアな音質を聴かせてくれます。
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